遺言書

1.はじめに

 当事務所では遺言書を作成したいという方のお手伝いをさせていただいております。お会いした際にもお話はさせていただきますが、このページではイメージをつかんでいただくために、遺言書について解説を行っております。

 最近になって終活といった言葉を耳にする機会が増え、書店でも終活をテーマにする本が置かれるようになってきました。そうした本でも遺言書については取り上げられ、このように書きましょう、といった分かりやすい書きぶりがされています。そこで、本稿では書き方以外の部分、すなわち法律はこうなっているということや、自筆以外の遺言書についても触れることとします。

2.遺言書の種類

 内容に触れる前に、遺言書の種類について簡単に述べます。通常作成される遺言書には、以下の3種類があります。

  ①自筆証書遺言

  ②公正証書遺言

  ③秘密証書遺言

 ご自宅で本を買って簡単に、という一般的な遺言書は、①の自筆証書遺言のことを指します。②の公正証書遺言と③の秘密証書遺言は、いずれも公証役場という場所で作られるもので、公証役場へ支払う費用などがかかってきます。とはいえ、公証役場で遺言を作成すると、自筆証書遺言のデメリットである遺言書の紛失や、そもそも遺言があるのかどうかといった調査が困難であるという問題が解消されるというメリットがあるため、一長一短といえます。

(1)自筆証書遺言

 この方式は読んで字のごとく、「自筆」の「遺言」です。まずは法律がどうなっているのか、見ておきます。

 

 

 

第968条 

自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。 

 

 これによれば、日付と氏名を書いて、印鑑を押せばいい、ということが分かります。せっかくの遺言です。きれいに書きたいと考えるのが普通です。しかし、その結果遺言書として法律上の効力がないものが出来てしまうということがあります。そこで、ケースごとに、有効なのかどうか、チェックをしていきます。

 

ケース1:パソコンを用い、全文をプリンターで印刷を行った

 手書きは書き間違えないようにすることが難しく、また字が上手くないような場合も、パソコンを用いれば、きれいに仕上がります。しかし、これは「自書」ではないため、残念ながら遺言書としては認められません。なお、カーボン紙を用いた複写が残っていた場合、これは自書したものに限りなく近いことから、「自書」として認められています。

 

 

 【平成31年1月13日以降の取扱いについて

 これまでは、預金や土地建物が多くあっても、全て手書きをしなければなりませんでした。預金口座が複数ある方は珍しくもなく、また先祖代々の土地や建物が複数ある方も同様です。そのような方々にとって、1つ1つ口座の名義や口座番号、あるいは土地や建物の所在などを紙に認めていくことは手間であり、負担でもあります。特にご高齢の方である場合はこういった事情から、書きたくても書くことができない、ということにもなり得ます

 

 条文として読むと分かりにくい言い回しですが、つまりは以下の通りです。

 ●自筆証書遺言に付ける財産目録(財産のリスト)については、自書しなくてよい。例えば、

   ・パソコンで作成する

   ・通帳のコピーを付ける

   ・登記事項証明書を付ける

  といった方法をとることができる。

 ●この方法をとった場合、目録の毎ページ(両面印刷やコピーをしていれば、両面とも)に、署名をし、押印しなければならない。

 

  なお、例題として挙げたケース1は、「全文を」印刷しています。遺言書の本文、つまりは誰々がいくらをもらえる、という書面は改正後も変わらず自筆しなければなりません。よって、ケース1は改正前後を問わず、遺言書としては無効となります。

  また、赤字でも述べた通り、この改正は平成31年1月13日から効力を発揮します。そのため、仮に「ちょうど去年(平成30年に)作ったものが・・・」ということがあっても、残念ながらその当時の民法では様式を満たしておらず、有効にはなりません。

 

 

ケース2:○年✖月吉日と日付を入れた

 「日付」とあることから、遺言書には「○年✖月△日」のように、具体的に日付を入れなければなりません。後に述べるように遺言書がいつ作成されたかは重要であるためです。

 

ケース3:実印が見つからなかったので、認印を氏名横へ押した

 条文には「印を押さなければならない」としかないため、実印でなく認印であっても問題はありません。また、同じ理由から拇印であってもよいとされています。

(2)公正証書遺言

 先ほど述べたように、公正証書遺言は公証役場という場所で作成されます。具体的には、証人2人の元、公証人が内容を聞き取って書き止め、正しければ全員が署名をする、というものです。民法上は、以下のように規定されています。

 

 

第969条 

公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

 一 証人二人以上の立会いがあること。

 二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。

 三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。

 四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、

  遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができ

  る。

 五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名

  し、印を押すこと。

 

 

 具体的に自筆証書遺言とは異なる点は、以下の通りです。

  ●有料である

  ●遺言者のほか、証人となる者が2人、必要である

  ●死亡後に遺言が発見されても、裁判所による検認手続きが不要である

  ●秘密にしておけない

 

1つずつ説明を加えます。

ア.費用

 公証人に対して支払う費用が必要となります。金額は目的物の価額、つまりいくらを遺すかによって変わります。

イ.証人

  2人以上が必要です。誰でもよいというわけではなく、なることができない人について、以下のように規定されています。

 

 

民法974条

 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。

 一 未成年者

 二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族

 三 公証人の配偶者、4親等内の親族、書記及び使用人

 

 

 条文だけではイメージが湧きにくいですが、要するに

 

①若い人

②相続が予定されている人と、その身内

③公証人の身内、書記、従業員

 

ということです。もっと具体的にいうと、

 

①大学2回生くらいより若い人

②亡くなって遺産がもらえる人と、その人たちの旦那さん・奥さんと、父母、お子さん、養父母など(生物学的な血縁者+養親子という法律上の親子関係にある人)

③公証人の旦那さんや奥さん、いとこや甥・姪の子どもまでの親族、公証役場におられる書記(事務)の方や、そこに勤めておられる方

 

 

ということになります。となると、なかなか証人を用意するだけでも大変です。ご家族がダメなので、個人でするとなると隣近所の仲の良い方、普段お世話になっている方にお願いすることになりますが、お住まいの地域によっては遠方となる公証役場(奈良の場合、奈良市と大和高田市のいずれかになります)まで出向いていただく必要があるため、負担となってしまいます。そのような場合は、行政書士をご利用ください。証人として私と、もう1人行政書士をご用意させていただきます。

ウ.検認手続きが不要

まずは、民法の条文を確認してみましょう。

 

民法1004条

遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。

2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。

3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。

 

 以上のように、公正証書遺言については検認が不要である、と規定されています。

 この「検認」とは何なのでしょうか。一言でいえば裁判所の手続きですが、これは遺言書の方式や状態を調査・確認するというものです。要するに、遺言が見つかった時点での遺言はこういう状態でしたよ、という裁判所のチェックが入る、というものです。チェックが入るからといって遺言の内容が正しいとお墨付きをもらえるとか、その内容が実行されるとか、そういった類のものではありません。とはいえ、公正証書遺言以外の全ての場合において、検認をせずに手続きを進めてしまうと、過料(刑罰ではありませんが、罰金と同様にお金を徴収されます)に処せられます。

 

 

民法1005条

 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、5万円以下の過料に処する。

 

 

 

 なお、この検認手続きは裁判所に対して行うため、行政書士が関与することはできません。ご相談をいただいた場合には、検認のほか、不動産の所有権移転等の手続きの代理も可能な、司法書士の先生をご紹介させていただきます。

(4)秘密にしておけない

 

 

公正証書遺言は、公証役場で探してもらうことができます。今の世の中インターネットで何でも調べられる時代ではありますが、公正証書遺言についてはインターネットで探すことはできません。戸籍等を揃えてその方が亡くなったことを証明して、公証役場に検索をお願いすることになります。

(3)秘密証書遺言

 公正証書遺言と同じく、公証人が関与する遺言です。どう違うか、まずは条文を確認します。

 

第970条

秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

 一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。

 二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。

 三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその

  筆者の氏名及び住所を申述すること。

 四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人と

  ともにこれに署名し、印を押すこと。

2 第968条第2項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。

 

 公正証書遺言とは異なり、封印の手続きが増えているのがお分かりになるかと思います。条文としては少ないですが、結局のところ「証人二人以上の前に封書を提出」する必要があるので、証人が2人必要な点は同じです。そのため、作成のための費用・手間に関してはほぼ公正証書遺言と同じです。

 公正証書遺言と異なる点は、以下の通りです。

 ●内容を秘密にしておける

 ●検認の手続きが必要である

 

2の公正証書遺言の部分でも触れた通り、公正証書遺言の「すべての」遺言については、検認の手続きが必要です。そのため、公証人が関与しているとはいえ、秘密証書遺言についても検認手続きは必要となります。そういう意味では、全体的な手間としては公正証書遺言よりも増えているといえます。

(4)その他の遺言

 冒頭で「通常作成する」と述べましたが、1~3で触れた3種類の遺言は、まとめて普通方式と称されます。これに対し、特別方式という遺言がありますので、参考程度に簡単に触れます。

ア.死亡危急時遺言

 病気などで死の危険が迫ったときにする遺言です。自筆証書遺言とは異なり口頭で遺言の内容を伝えることができますが、証人3人以上が必要です。20日以内に家庭裁判所に請求して確認を得る必要があること、家庭裁判所が遺言者の本心からしたものと認めないと確認してもらえないことの2点には注意が必要です。

イ.難船危急時遺言

 船が遭難し、死の危険が迫ったときにする遺言です。この場合は証人2人以上の立会いのもと、口頭で遺言ができます。これを有効にするためには、証人がこれを書き留めて署名・押印し、かつ証人の1人か、利害関係人から家庭裁判所に請求して確認を得なければなりません。なお、この確認については死亡危急時遺言と同様、本心からしたと認めないとしてもらえません。

ウ.伝染病隔離者遺言

 伝染病にかかり、行政から隔離処分を受け、交通を断たれてしまった場合、警察官1人と、証人1人以上の立会いのもとで遺言書を作ることができます。この場合、遺言者と証人は、各自遺言書に署名し、押印しなければなりません。

エ.在船者遺言

 船に乗っている場合、船長または事務員1人と、証人2人以上の立会いのもと、遺言書を作ることができます。伝染病隔離者遺言と同様、遺言者と証人は、各自署名・押印しなければなりません。

オ.補足

 1~4は、非常に特殊な状態であることが分かります。とはいえ、場合によりこの特殊な状態を脱することもあります。そのようになれば、本来の原則に戻り、自筆証書遺言などをすれば足ります。そこで、普通方式の遺言をできるようになって6か月生存していた場合には、上記1~4の遺言は、無効となります。

3.おわりに

 遺言書の全体について説明をさせていただきました。人が生活していく以上、必ず財産というものは残ります。遺言書というと大げさだと思われるかもしれませんが、少しでも財産が残っている限り、死後に揉める可能性というのはゼロではありません。そのような事態に備えて、遺言書を備えておくことは有効です。書き方でご不明な点や、公正証書遺言を作りたいなどありましたら、当事務所までご連絡ください。